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コラム詳細

2016/07/01掲載
靴磨き
「本当はご自分でやるのが一番いいんですよ。その時間は自分との対話ができるから」。

これは、昔筆者が立ち寄った靴磨き屋で聞いた店主の言葉だ。厄介な仕事が一段落し、少し早目に帰宅の途についている時、目に留まった靴磨きの看板と自分のくたびれた靴とが動機となって、新橋駅地下街の一角の小さな店に入ったのは15年以上前になる。

靴には履いている人の外面的なものから内面的なものまで鏡のように表してくれるから、時折靴を磨きながら普段の自分を振り返ってみるといいのだというようなことをその店主は言っていた。「皆が自分で靴を磨くようになったら、靴磨き屋さんは商売上がったりじゃないですか」という筆者の軽口にも、「それでいいんですよ」と、店主は真面目に切り返す。商売っ気がないなと思っていたが、仕上がった靴は、店に入った時のものとは別の靴と思える程に見事に磨き上げられていた。そこには素人には到底及ばないプロの仕事があったのを店主の言葉とともに鮮明に記憶している。

先日テレビで、靴育て研究家の明石優氏を紹介する番組が放映されていた。靴磨き職人だった明石氏は、多くの人に自分の技を共有してもらい、靴磨きを歯磨きと同じぐらい当たり前の文化にしたいという思いから、全国各地で「靴育て教室」を主宰している。教室のテーマは「20年履ける靴に育てる」。教室では、靴のメンテナンス方法を学ぶだけではない。最後の講義では、大切な人の靴を磨き、その人に手紙を書いて靴に添えるのが恒例となっている。大切な人の人となりを映す鏡のような靴を磨きながら、感じたことをメッセージとして伝えることで、相手との関係を磨き、育て、感謝し続ける機会にして欲しいと明石氏は考える。

靴磨きは、靴を大事にすることだけでなく、人を大事にすること、自分を大事にすることにもつながると教えられた気がする。新橋の店主が言いたかったことも同じだったのかもしれない。

番組を観たすぐ後、筆者は触発されてせっせと自分の靴にブラシをかけていた。新橋の店以来靴磨き屋には立ち寄ってはいない。人からの教えを意外と素直に受け入れてしまう性格は果たして筆者の靴に表れているのだろうか。(歩)

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