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コラム詳細

2025/12/01掲載
逸脱の常態化
宇宙飛行士7人の命が失われた1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故は古典的な失敗事例です。爆発の原因は補助ブースターのガス漏れを防ぐゴム製リングの不具合が原因でした。NASAの技術者たちは低温下でのリングの性能について懸念を表明していましたが、過去の飛行において実害がなかったことから、組織にとってリングの不具合は「よくあること」と認識されるようになり、危機感が麻痺していき、大事故につながりました。このように、本来、組織にとって許容できない行動、慣行、状態が、徐々に正常なものとして受け入れられていくことを「逸脱の常態化」と呼びます。

残念ながら、「品質データの改ざん」などの不祥事が報道されることがあります。例えば、「あるメーカーが顧客の求める品質水準をどうしても満たせない」→「実験室の試作のレベルでは要求を満たせるのだが、量産となるとバラツキを制御できない」→「しかし、実際には使用上なんら問題は生じないことはわかっている」→「そこで、実際の製品特性は抜き取り検査で問題がなければ、バラツキが仕様を逸脱する可能性については許容する」などの裏マニュアルができていく、などの流れです。

ことは製造現場に限った話ではありません。例えば米国社会で現在起きていることは、トランプ政権による「逸脱」の数々です。例えば、著名大学への攻撃や介入、裁判所への抵抗や攻撃、関税政策の乱用、FRBへの圧力、雇用統計の下方修正を受けた労働統計局長の更迭、などキリがありません。いずれも、当初は問題として認識されるのですが、短期的には大きな被害は生じないように見えることから、逸脱への感覚が麻痺し、その状態に慣れてしまうのです。

しかし、「この状態はしょうがないし、もはや変えられない」という学習無力感に陥ることが一番危険です。スペースシャトル・チャレンジャー号の例ではNASAの末端のエンジニアが、品質改ざんの例でも現場の技術者が、米国社会の例ではまさに多くの市民が違和感やモヤモヤを感じていた(感じている)はずです。「逸脱の常態化」を防ぐためには、自分の道徳観や倫理観に照らしての「違和感」「モヤモヤ」に敏感になること、そして沈黙しない勇気をもつことが出発点になります。(蹴人)

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