露骨な、しかし強力な交渉戦術 米国トランプ政権が多くの国々に関税で脅しをかけていますが、米国の乱暴なやり方(deal)が関税政策に関しては(米国にとって)結果を出していることも事実です。ここで中心となるのが「アンカリング(Anchoring)」という交渉戦術です。トランプ大統領はもともと不動産業界で成功を収めてきました(もちろん失敗も)。トランプ氏の交渉スタイルは強行姿勢で相手を威圧するスタイルですが、その中心となる戦術が「アンカリング」です。
アンカリングとは船を停泊させる際の錨(アンカー)からきています。アンカリング効果とは、最初に提示された数値などが基準になり、その後に続くものに対する判断が非合理に歪んでいくことです。行動経済学の創始者として知られるダニエル・カーネマンの初期の研究に次のようなものがあります。人々を2つのグループに分け、最初のグループには「アフリカの国々が国連メンバーになっている割合は45%より上か?」とまず聞き、次に「では、実際には何%だと思うか?」と聞く。別のグループには同じ質問内容で「65%より上か?」とまず聞き、次に「では、実際には何%だと思うか?」と聞く。興味深いことに、前者の方が後者より小さい値を答える傾向があったとのこと。
人間は、スタートラインの数字に影響を受けてしまうのです。交渉にこの理論を応用すると、「交渉はどこからスタートするかによって結果が違ってくる」ということになります。アンカリングにおいて最初に提示する条件は、できるだけ「高い目標」とすることが大切です。なぜならば、最終的に得られる交渉の結果は、最初に置いた目標以上には決してならないからです。逆にアンカリングを使われた側からすれば、「この条件の設定自体に何か不合理なところがあるのではないか」と疑ってかからなければなりません。
実際のビジネスではあまりに露骨で不合理なアンカリングを駆使してくる相手がいた場合、そもそもの信頼関係が壊れ、継続的なビジネスにはならないものです。しかしながら、国と国との関係においては安全保障の問題などもあり「付き合うのをやめた」というわけにもいきません。トランプ氏は各国の足元を見ているわけですが、そうした行為の積み重ねがいかに米国という国のソフトパワーを毀損しているか理解してほしいものです。(蹴人)
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