モラベックのパラドックス 「モラベックのパラドックス(Moravec’s paradox)」とは、人工知能(AI)にとって、数学的思考や論理思考など、専門的で高度な推論を行うことよりも、幼児でも身に付けているような知覚や運動の能力を獲得することの方が、より技術的に困難であるという逆説のこと。
さて、2023年は、ChatGPTが流行語大賞にノミネートされるほど、生成AIがブームとなりました。ChatGPTのような言語生成AIやStable Diffusionなどの画像生成AIの登場によりAIは市民権を得て、誰もが簡単に使えるようになりました。企業などでも、生産性向上による業務の効率化に寄与するとして、セキュリティに配慮しながらも生成AIを取り入れる動きが顕著です。一方、「進化したAIが人間の雇用を奪うのでは」という不安も根強く聞かれます。
産業革命以降、人間の肉体労働は機械によって置き換えられました。当時の肉体労働者は所得水準の低い層でした。しかし今は、所得水準の高いホワイトカラー層がAIに狙い撃ちされているように見えます。例えばアメリカでは、投資銀行のトレーダー、法律事務所のパラリーガル、資産運用アドバイザー、保険の外交員、証券アナリストなどの頭脳労働の雇用が減少し始めているといいます。ほんの十数年前までは、「コンピュータによって奪われる仕事は?」と尋ねられたら、工場労働者やトラック運転手などのブルーカラー職、次に事務職などのホワイトカラー職、次がプログラマーや士業などの高度専門職、最後まで残るのが作家や画家などのクリエイティブな仕事と思われていました。
しかし、今起きていることは、それとは反対の方向にも見えます。アマゾンのように各種ロボットの開発を進め、配送センターの自動化を進めても、むしろトラック運転手や配送センターの現場は人手不足できりきり舞いです。AIロボットは手先の器用さにおいて人間にはるかに及びません。一般的な認識に反して、肉体労働の方が頭脳労働よりも、ある意味では難度の高い作業ではないでしょうか。ChatGPTを世に送り出したオープンAIのアルトマン自身が、「私達はどんな技能が難しいか、あるいは簡単かについて認識を改めるべきだ。身体を正確に制御することは実はものすごく難しい仕事なのだ」と語っています。(蹴人)
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