ハインリッヒの法則 「1件の重大事故の裏には29件の軽事故があり、さらにその裏にはヒヤリとしたり、ハッとした300件の体験がある。」これは「ハインリッヒの法則」と呼ばれる経験則です。この数字自体にはそれほど意味はなく、重要なのは、大事故に至るまでには多くの予兆が生じており、対処する機会が何度もあったはずだ、ということです。先般、この古典的な法則が当てはまる事故が起きました。
2022年4月23日、北海道の知床半島の沖合で、乗員・乗客26人が乗った観光船が沈没しました。異変があったのは出港からおよそ3時間後の午後1時ごろ。同船から「船首が浸水し、沈みかかっている。」との救助要請があり、さらに午後2時ごろには「船首が30度ほど傾いている。」と運航会社に伝えたのを最後に連絡が取れなくなりました。
本事案では、「ハインリッヒの法則」で言うところの軽事故、ヒヤリハットの事実が次々と明るみになりました。例えば、事故を起こした運航会社では近年人員整理が行われ、ベテランスタッフがいなくなっていたこと、それ以降、同社の船が岸に近づきすぎたり、定置網の近くを通ったりする危険な様子が目撃されていたこと、昨年には実際に漂流物との衝突事故、座礁事故を起こしていたこと、事故当日、関係者の制止を振り切って出港したこと、船体に15cmほどの亀裂損傷が確認されていたこと、通信手段として衛星電話は使えず、おまけに船長の携帯電話は航路上のほとんどが圏外であったこと、事務所の無線設備が破損していたこと、など枚挙に暇がありません。
今後、事故原因が究明され、安全管理に問題のある観光船の運航会社は事業を継続できないようにルールの厳格化や罰則強化をするなど、再発防止策が講じられることでしょう。大事なことです。しかしもう1つ考えてもらいたいのは、これほどのヒヤリハットがありながら、なぜ事故を止めることができなかったのか、という視点です。現地のある関係者が「いつか事故が起きると思っていた」とテレビでコメントしていましたが、そう思うのであれば、なぜあなたは当事者意識を持って動かなかったのか、という視点です。「自分の役割ではない」「言っても無駄」「揉め事に巻き込まれたくない」という傍観者的態度を多くの人が持ってしまうからこそ、「ハインリッヒの法則」が現実化するのだ、ということを認識すべきです。(蹴人)
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