悪魔の代弁者 2022年2月24日は間違いなく世界史に刻まれる日になってしまいました。ロシアがウクライナに侵攻し、戦争状態に突入してしまったからです。本コラムではウクライナ危機の政治的、歴史的な背景を考察するのではなく、なぜプーチン大統領がこれほど破滅的な選択をしたのかといった点について、彼の個人的な資質ではなく、意思決定システムの面から考えます。
象徴的な場面がありました。ウクライナ侵攻の3日前に行われたロシア安全保障会議での、プーチンと幹部(対外情報庁長官、セルゲイ・ナルイシキン)とのやり取りです。プーチンが自分の意に沿わない曖昧な返答をする幹部に対して、昭和のパワハラ上司風の詰問調で、自分とは違う意見を一切認めようとせず、ただ賛同を強要する場面が記録されています。このような恐怖政治では、自分に耳障りの良い情報しか入ってこなくなることは容易に想像できます。
「悪魔の代弁者」という言葉があります。悪魔の代弁者とは、多数派に対して、あえて批判や反論をする人(役割)のことです。ある意見が、いかなる反論によっても論破されなかったがゆえに正しいと想定された場合と、そもそも反論を抑え込むことによって正しいと想定した場合との間には大きな差があります。現在では、意思決定のクオリティは、侃侃諤諤の意見交換が行われれば行われるほど高まることが分かっています。
同じ大国のリーダーであった、アメリカのケネディ大統領のエピソードがあります。1962年、当時のソ連がキューバに攻撃用ミサイルを配備したため、米ソ両国が対決寸前にまでいきました。ソ連への対策を協議するチームの中で、ケネディは腹心のロバート・ケネディ(弟)とセオドア・ソレンセンの二人に「悪魔の代弁者」の役割を果たすように命じました。結果、先制攻撃しかないと思われた選択肢に隔離または海上封鎖のアイデアが加わりました。その後、「武力攻撃案」と「海上封鎖案」が徹底的に比較・検討され、大統領は後者を選択することになり、武力衝突は回避されました。
歴史から学べることは、同調圧力が強い、本音が言いにくい言論空間では意思決定のクオリティは下がる、ということです。「王様は裸だ!」と叫ぶ少年の意見がいかに重要か、ということです。(蹴人)
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