プロジェクト・マネジメントのPMコンセプツ/コラム詳細

プロジェクト・マネジメントのPMコンセプツ/コラム詳細

PMコンセプツ・トップページ >> コラム詳細

採用情報サイトマッププライバシーポリシーお問い合わせ

コラム詳細

2020/08/01掲載
基礎研究の危機
近年、日本人のノーベル賞受賞が相次いでいます。特に自然科学部門での日本勢の健闘は目覚ましく、2000年以降、日本人科学者の受賞は17人に及び、アメリカに次いで2位。まさにノーベル賞ラッシュですが、この数年間で、受賞後の記者会見の光景は様変わりしました。受賞者が口々に、日本の未来を悲観する声をあげるようになってきたのです。

例えば、2016年に生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士は、次のように述べています。「日本の大学はすべてを効率で考えるという袋小路に陥り、科学の世界に『役に立つ』というキーワードが入り込みすぎている。研究費が絞られるほど研究者のマインドは効率を上げることに向かうが、自由な発想なしに科学の進展はない」。このことは、研究者が「効率」を求められるようになった結果、自由な発想に基づく基礎研究が疎かになっていることを意味します。

一体、日本の研究現場、特に大学部門のそれはどうなっているのか。日本の研究力低下の原因は、突き詰めると研究資金の問題です。研究費が足りないから、十分な研究者や研究資金が確保できず、結果、論文数が伸び悩むという悪循環。さらには、博士課程修了者が安定した研究職に就けないという現実。博士課程修了者の6割は非正規雇用かポスト待ちというデータもあります。そして海外に比べると、あまりに貧弱な学生支援制度。今では優秀な修士課程学生ほど、進学を躊躇し企業へ進むという状況です。

なぜ、こうなったのか。2004年の国立大学法人化が1つの転機です。これにより、毎年1%ほど運営費交付金が減額され、自ら収益を上げる努力をすることを各大学は求められます。さらには、有望な研究に資金を投入するという「選択と集中」政策。その結果、競争的資金を獲得するための資料作り、事務作業に研究者の多くは忙殺されます。必然、研究のための時間はなくなり、研究基盤の弱体化につながります。

思うのは、「効率化」と基礎研究(イノベーション)は相性が悪いということです。ガラケーの時代に、もっと高機能のガラケーを作るのと、洗練されたiPhoneを作るのとはアプローチが違います。後者であれば、単なる「効率化」ではなく、自分のこだわり、世界観の追求、そして現実の話、十分な資金が必要です。日本の経済力が落ちれば落ちるほど、基礎研究の危機は避けられそうにありません。(蹴人)

採用情報サイトマッププライバシーポリシーお問い合わせ